太朗の主夫日記 ~So What?~

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茶色い小さな、紙袋

 

バイト先の先輩が、

ボクに言った。
可愛らしい女の子が店に来て、
「あなたにこれを」

と言って、去っていったよと。


茶色い小さな、紙袋。

袋の中には、
YMOのCDと道路標識のレプリカが入っていた。
CDは、ボクが彼女の家に置いてきたものだった。
道路標識に驚くよりも、
彼女が今頃、
ボクを尋ねてきたということに、
驚いた。
顔を合わせていたら、
どうなっていたのだろう?
紙袋は、

最初から、ボクに手渡すのではなく、
人づてに、渡すために、
用意されていたように見えた。
彼女は、
尋ねて来ても、ボクはそこにいないことを、
わかっていたに違いない。
なにせ、ボクは彼女を何十年も、
探し続けて、
一度も会えなかったのだ。
彼女から、ボクの動きは筒抜けだったが、
ボクは、一度も彼女の姿を捕えることはできなかった。


不思議なことは、
彼女と暮らしたことがある、
と、いうことだった。
彼女はある日は、
ボクを殺したいくらい、憎いと言い、
ある日は、
太陽が落ちてくるほど、ボクを愛していると言った。
ボクは、ずっと彼女に罪の意識を感じていた。


やはり、一緒に暮らすべきではなかったのだ。
彼女との思い出は、
まるで、甘ったるい悪夢のように、
ボクを支配し、
そこから逃れるためには、
ボクは、死ぬしかない。


なぜ、彼女は、バイト先にまで、

ボクを尋ねてきたのだろう?
ボクはあの頃、いつでも、ふたりの問題の解決を求め、
地獄から最速で逃れる方法を、毎日のように、

彼女に提案しつづけていた。
地道で、実直で、建設的な努力だった。
それが、致命的な間違いであることに、
気づいたのが、今日だった。
少しは、恋愛マンガでも読んでおけばよかった。
こんなに、よく聞くような話に、良い歳になるまで、
気づかないなんて!


彼女は、ボクに何も求めていなかった。
何となく、時は過ぎていくだけだったのだ。
救いは、全く見当違いの方向からやってきて、
ボクはそこには、存在しないのだ。

彼女が、解決を求める日というのは、
ボクにとっても、彼女自身にとっても、
わけのわからない日にやってくる。
おそらく。
ボクには、ただの、気まぐれに見える。


ある日彼女は、解決を求め、
ボクがいないことを見計らって、
ボクが辛い労働をしている、
アルバイト先にやってきた。
茶色い小さな、紙袋ひとつ抱えて。

 

ボクには、解決できる物事などなかったのだ。
ボクには、愛する人を救うことができないのだ。
誰かにとっての救いは、いつもその人の死角に存在する人。

こんなに、良く聞くような話がわかるまでに、
どれほどの時間がかかったのだろう?
わかっていると思いこんでいたことが、
何もわかっていなかったのだ。

どうやって生きていけば、良い?

 

彼女から受けた、

無数の恩恵のひとつ。

甘ったるい悪夢から生まれた
副産物。
唯一の救い。

何十年もたって、
彼女をほんの少しだけ、理解したことが、
今のボクの苦痛を、ほんの少し和らげてくれること。

ありがとう、本当にごめんなさい。
いまだに意味が、わかりません。