太朗の主夫日記 ~So What?~

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ド不幸自伝⑤ ~私説サイコパス~

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≪前回までのあらすじ≫
:20代前半。両親の借金のため、兵器工場で、働くことになった自分は‘モアイ’像によく似た男と、知り合いになった。モアイは工場の若者を集めて、粉もの屋を開店する。自分はモアイと、怪し気な賭博場への潜入や、デタラメな沖縄旅行など、頽廃的な遊戯を繰り返す:

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〈強烈な個性の、年上男性を見ると、
虫が、電気の光に、
吸い寄せられるかのごとく、
ただ、本能的にそこに向かってしまう。
数字の上では、
成人しているとはいえ、
理由のない本能を疑うほど、
自分の心を、客観的に見つめることができる、
年齢ではなかった〉

モアイとの友人関係を、
継続している理由を、
先に、こう書いた。
この説明だけで充分だろうか?
この説明が、
この後に書く、
自分の行動の理由として、通用するだろうか?
だが、これ以上の言葉が出てこない。

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1999年、
ノストラダムスの大予言を、
実際、そのときが来て、
まさか、本気で信じていたわけでもない。
でも何処か、
この悪名高い噂話の所為で、
2000年という時が来ることを、
明確にイメージすることが、
やや妨害され、
世紀末をマジメに生きる気持ちが、
不足していたようには、思える。
小渕首相は‘真空総理’などと、
悪口を言われていたが、
心が真空状態なのは、
むしろ、
自分を含めた、庶民側の方だった気がする。

自宅と、工場と、モアイの粉もの屋を、
トライアングルで駆けているだけの、
究極的に、生きる世界が狭かった自分に、
他者の心がわかろうはずもなかったのだが、
時代の印象としてあるのは、
兎にも角にも、
恐るべき無関心と無気力さ。
覚えているのは、
宇多田ヒカルの歌のメロディーだけである。

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伏線になる出来事と言えば、
モアイに馬券を買う金を、預けたことだろうか。

「オマエ、オレを信じてみいひんか」

モアイはいつもの癖で、
前に出た顎を強調するようにして、
ニタリと自分に微笑みかけた。

「決まったレースを、おれは知っている。
ちょっと信じて、いくらか貸してみろ。
悪い話やないやろ」

もうとっくに、
狂った遊戯のような関係だ。
「ほんの試しに」
数千円の金を、自分はモアイに手渡す。
時折、
元工場の若者たちも、
同じようにモアイに金を渡していた。
数日後、カネは倍の金額になって帰ってきた。

ラクリは、簡単である。
自分は、ギャンブルになど興味はなく、
賭けたことはなく、賭け方も、
競馬のルールも知らない。
元工場の若者たちも、
競馬など見るヒマもない。

モアイは、馬券を買う必要もないわけだ。
自分は「買う」と言われたら、
「買っているのだろう」
としか、考えない。
モアイのような人間は、
他人を欺く為なら、
少々自身の身体を傷つけるくらいのことはするし、
嘘がばれても、
嘘を突き通す。
気づかなかったのは、
単なる自分の経験不足である。
そして説明するまでもなく、
モアイのやっていることは、
単なる、ノミ行為である。

結局、癖のようなものだろうか?
無意識に一度したことを繰り返すことに、
疑問は湧かない。

「オマエ、オレを信じてみいひんか?」

モアイが自分に言ったのは、
やはりこのセリフだったような気も、する。
粉もの屋には、
もはや元工場の若者は、ひとりもいない。
皆、店に見切りをつけ、
それぞれの仕事を、新しく探しはじめていた。
モアイがノミ行為を行う対象も、
消えていたのである。

モアイが自分に、新たに持ちかけたのは、
馬券の購入でなく、
消費者金融での借入だった。
何という言葉で持ちかけられたのか、
どうしても思い出せない。

「オマエ、オレを信じてみいひんか?」

だった気も、するのだ。
この時点でのモアイは、
自身のことを、

〈大阪で美容室を経営していたが、他の事業も行っており、
それを、在日コリアンに邪魔され(相変わらず、言う)
離婚し、大阪にはいられなくなり、京都に身を隠している。
だから、身分を第3者に証明することが、できない立場だ>

と、自分に説明していた。

(一切の借入ができないんや、オマエが代わりに借りてくれ)
…いくらなんでも、
こんなことを言われて、
身代りに消費者金融に、飛び込んだりするだろうか?

このような持ちかけなど、
狂気を通り越して、
殺意に等しい直接行為であり、
受ける側は、自ら殺されに行くのと、
同じことだ。

近頃は、
サイコパスに関する著作もあり、
狂気的な人間に対する、
予防行為は、
情報の発展と共に、
進化している気がする。
書店に行き、
そういった本を目にするたびに、
(どうしてもっと早く、教えてくれなかったのか)
と、忌々しい気分になる。
だが、目にするのみだ。
実際にページを開いて、
読んで見ようなどとは、思わない。
目的もないのに、手段を選ばない人間の存在など、
一生をかけたところで、
自分に理解できるとは、到底思えない。
当時の自分は、
モアイの目的を、全く気にかけなかった。
人間が、人間にのめり込むことほど、
恐ろしいものはない。
繰り返して言うが、
他者の目的を気に掛けないことなどは、
自ら殺されに行くようなものだ。
知識の有無など、
関係ないのかもしれない。

自分はそれまで、
消費者金融など利用したことはなかった。
「〇〇くん」といった、
愛想の良い看板が立った店舗の自動ドアを、
付き添いのモアイと共にくぐり、
言われるがままに、
機械のボタンを押せば、
ミルクのようにカネが出てくることを、
知ったとき、
自分のやらされていることを、
初めて理解したのだ。
もちろん、機械の向こう側には人がいて、
釈然としないまま、数十万のカネを引きだそうとする自分に、
何かしら問いかけるのだが、
立派な兵器産業に携わっていた自分の身分は、
保証されており、
モアイよりも余程、
社会的強者だったわけだから、
簡単にカネを借りることが、出来てしまったのだ。

一店舗のみから、
カネを借り入れたわけではない。
記憶が正しければ、
5店舗をまわった。
一店舗の限度額が大体、20万円。
100万近くのカネが、何故モアイに必要だったのか?
単純なことだ、
モアイには、カネが無かったからだ。

「おれは、あんたにとてつもなく無防備なことしてるんや。
 絶対に裏切らんといてや」

と、自分はモアイに告げ、
「必ず」と言って、
モアイは自分に手を差し出し、
ガッチリと握手をした。
このとき感じた、恐れと恐怖こそが、
自分がようやく、
真人間であることを取り戻す、
サインだったということになる。
そして同時に、
取り返しのつかない、
不幸の門をくぐる第一歩でもあったのだ。

*この自伝は、事実を元にして書いていますが、あくまでフィクションです*

つづく→