太朗の主夫日記 ~So What?~

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ド不幸自伝⑬ ~不幸の終わり~

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≪前回までのあらすじ≫

:20代前半。両親の借金のため、兵器工場で、働くことになった自分は‘モアイ’像によく似た男と、知り合いになった。自分はモアイと、頽廃的な遊戯を繰り返した果てに、消費者金融でモアイのために金を借り入れる。モアイは逃走し、ショックとストレスから精神を破綻した自分は、京都市北部の精神病院へ通い、医師の手によって、強制入院させられるところを逃走する:

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自伝を書くというのは、つまらないものだ。
ただ、起こったことを、順繰りに書くだけだから、
意外性の入りこむ余地がない。
主人公である自分が、
精神疾患を患ったところで、
それが単なる現実であるからには
次から次へと、
ランダムな人物と関わり、
さして意味のない会話を交わし、
大したファンファーレもなく、
時間は過ぎ、
やがて終わる。
とはいえ、
自伝が意外性と無縁であっても、
この陰々滅滅たる活字の連続が、
何となく、小説風になってきたことは、
副産物というか、
書いている自分にとっても、本当に意外だった。

これは、果たして自伝なのか、小説なのか?
書き終わってみれば、わかるのだろうか?

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前回、
病院を脱走したときに、
自分の病気は治りはじめていた、
と書いた。
だが、当時の自覚としては、
病院を全力で脱走したとはいえ、
苦しみは続いている。
だから変わらず、途方に暮れていた。
内なる自分の力には、気づいていない。
新芽のような、力の発動に気づくには、
もう一刺激が必要であった。

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それは、少しだけ妙な出来事である。

自分は、
付き合いを良くしようと、心していた。
何でも良い、
人に会う機会があるというのなら、
なるべく、話に乗る。
どれほど不安だろうが、
何とか押しきって、他者に触れる。
それが大事だと感じていた。
家と散歩だけでは、腐り行く。
(このように意欲がある時点で、好転しているのだが)

ある日、
中学の同窓会が行われるという、知らせを聞いた。
当時だから、
おそらく携帯電話のメールでの、知らせだろう。
24歳など、子ども同然の年齢で、
10代とそう変わりない。
学校に行ってた時分など、身近なものだ。
同窓会の類も、
割と頻繁に開かれていたような気がする。

「行こう」自分はすぐそう決めた。

船だ、自分は船に乗っている。
生きているからには、死なない。
死なないのだ。
「人」は怖いかもしれない、
海だ。人は海だ。
自分は船に乗っている。
大きな船に。沈むことのない船に。

そのように、言い聞かせた。

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治療目的で、
参加している自分に、
宴会を楽しむ気持ちの余裕などない。
同級生と再会したところで、
何の感動もなく、ただ座っている。
不安の液体が、
縁いっぱいに注がれたカップを、
頭の上に乗せているようなものだ。
必死で、平衡感覚を保っている。
アルコール類には、一切手をつけなかった。
周りからは、単なる無愛想に見えたことだろう。

店の場所は忘れてしまったが、
おそらく河原町の何処か。
狭い京都の繁華街、
モアイの粉物屋の跡地からも、近かったかもしれない。
悪夢の舞台となった場所に、
あっさり舞い戻り、
同窓会という一日を、過ごしている自分がいることが、
今では、妙に不思議に思える。

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あれは、二軒目の店だったと思う。
20人弱の同窓会メンバーは、
河原町の居酒屋から、出町柳駅近くにあった、
今でいうカフェのような場所へと、流れていた。
自分も含めた、
そのうちの10人くらいが、
広い丸テーブルの席を取り囲む。
顔を上げると
視界いっぱい、ぐるりと人間の顔があった。
今まで、書いていなかったことなのだが、
当時の自分は、タバコを吸っていた。
スマートフォンも無い時代なので、
誰とも離したくない間を、
嫌味なく誤魔化すのは、
宙を見てタバコを吸うのが一番だった。
喫煙が、
今ほど問題視されておらず、
タバコの価格も安かった。
一言言えば、
さほど遠慮せずに、喫煙することが可能で、
煙に苦痛を感じている人間に、
気づくことが難しかった。
自分以外にも、タバコを吸ってる人間は多く、
丸テーブルは、もうもうと煙に包まれていた。

煙の中に、〇山がいた。

「イヤやな」

と、自分は思った。
〇山のことは、
このように、
名前を書く気にもなれない程、嫌っていた。
(この自伝も終わりに差し掛かっているので、ニック・ネームを考える気にもなれない)
〇山は、かなりの色男だったが、
話の内容が無神経で、
「何人」の女性をモノにしたとか、
そういうことを、
まるで成果のように、吹聴するような人間だった。

席を立ちたかったが、
自分に機敏な動きをする元気はない。
〇山は、何故か場の中心になって喋ろうとしていた。
妙に、懸命である。

「オレは、出家した」

〇山はいきなり、そんなことを言う。

「仏の道に仕える身になった。修行の成果で、オレは昔と変わった。めちゃくちゃ社交的になって、人と話す性格になった」

「髪の毛、あるやん」周りにいた誰かがそう言う。

「いや、今の時代、髪の毛とか関係ないない。アレはイメージやねん」

おそらく〇山は、身に起こった出来事を話しているのだろう。
だが自分には、まともな話に感じられなかった。
常人ならば、
一端、立ち止まって考えるべき過程が、
丸ごと抜け落ちたまま進行している。
違和感に、不快感。
いやそもそも、本当の話なのかどうかもわからない。
サイコパス気質…。
まるで、モアイだ。
道徳がない。
心に痛覚がない。
〇山はまくし立てるように、喋る。
聞きたくない。
すると〇山は、
全く予期しないことに、
自分にとって、耳に刺さらずにはいられない、ある単語を使い始めた。

「今度、師匠が精神病院に入ることになった。一度入ったらもう出てこれへん。そしたら、オレがもう一歩上の立場に行ける」

精神病院?
何故、精神病院という単語が出てくるのだ。
それも、〇山の口から。
精神病院とは、
これほど耳にするくらい、身近な存在だったのか?
〇山は、
己の職場の不幸だの、精神病院だのを語るのが、
何故あんなに楽しそうなのだ。

「うわああああ!」

気がつくと自分は、叫び声をあげていた。
つい最近、その精神病院とやらに、
閉じ込められそうになったばかり。
「一度入ったら出てこれない」
何の悪気もなく、そのようなレッテルをはる〇山と、
数秒たりとも、同じ空間にいられるはずがなかった。
自分は、弾丸のように店を飛び出した。
料金を支払ったのか、覚えていない。
(おそらく、まだ注文をしていなかったのだと、思うが)

またしても、脱走。
同じようなことを、繰り返している。
繰り返していることに、情けなさを覚える。

(後に聞いたが、〇山は「アイツの頭の病気、治さなアカンな!」と言っていたらしい)

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このような、出来事であった。
特に大きなことではない。
だが、ここからなのである。

何故だろう?
この件をきっかけに、
自分の不安は、大幅にマシになった。
寝ているとき以外は、絶えず不安だったのが、
わずかながら、平常な心の時間が存在するようになった。
常不安から、予期不安(不安の発作が来るのでは?という不安)
にまで、症状が改善されたのである、
ラクになったのである。
良いことがあったというわけでもないのに。

心とは、わからないものだ。
一体、何がどう作用したというのだろうか?
精神医療とは、何なのだろうか?

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さらに妙なことに、
自分はこの後、遠藤医師の診察を受けている。
あの脱走劇があって以来、
会わなくなったというわけではない。
そのまま、脱走していれば、
ストーリーとして、すんなりと落ち着くのだが、
現実は、そうスムーズではない。
診察を受けた証拠に、
「精神病院に一度入ったら出てこれない」
という、〇山のセリフを気にした自分が、遠藤医師に相談している記憶が、
はっきりと残っている。
遠藤医師は、

「それはおかしいですね。入ったら出てこれないということは、ないですよ…」

と、言った。
すると今度は、遠藤医師がまともな人間に見えてくる。

「まとも」

まともとは何なのだ?
何もかもが、わからない。

さらに数回、会話のやり取りをする。
何を話したのか、覚えていない。
だがその時、不意に自分は、

「ここは、もう良いだろう」

と、思ったのだ。
音を立てて波が引くように、思考がスッと冷めたのだ。
誰の何が、正しいのか?結局は、わからない。
だがとにかく、この医師、この病院、この場所を、
自分はもう通過したのだという実感が、はっきりこの手にあった。
もう良い。
自分は、自分の意志で次の医師を選ぶのだ。
誰にも強制される必要はないのだと。

つづく→

*この自伝は、事実を元にして書いていますが、あくまでフィクションです*