たろうの音楽日記

日々の音楽活動に関する覚え書きです。

平和とは何か?②~#MeToo 勝手に殴られてろ~

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高校を出てからの話です。

ロクなことをしてなかったから、ロクな友人がいなかった。

20歳くらいの頃、
アルバイト暮らしの、平凡な日々を送っていた。
生きがいと言えば、ウサ晴らしの野球観戦くらいで、
ある日、
その「ロクでもない友人」2人と、自分を合わせた3人の男で、
京都から、
神戸にある、グリーンスタジアムへと出かけた。
オリックス・ブルーウェーブの、イチロー選手のプレーを見るためだ。
阪神大震災から、まだ一年しか経っていなかった。

3人の男というよりは、悪童だ。
悪童たちが夢中になっていたのは、
ヒマつぶしのためのサブ・カルチャー。
ダウンタウンのコント、筒井康隆の小説、荒木経雄の写真、
男尊女卑的で、荒々しく、刹那的で攻撃的で刺激的で、
あざ笑うような、理屈っぽいエログロ・ギャクが、
大好きだった。

まるで文化の、原始時代だ。

例えば野球場に向かう電車の中で、
ロクでもない悪童3人は、
どのような、ロクでもない会話をしていたのだろうか?
おそらく、女性のことを「女」と呼称し、
「ソレ」を手に入れるためには、どうすれば良いかを話していたのだろうと、思われる。
(これは、書ける範囲のことだ)

だが自分には、
かすかに、生まれた時のままの心も残っていたようだ。
当時、
前述した、ダウンタウン松本人志が、
大ベストセラーとなる、幼稚なエッセイ集を出版しており、
その文章の一節に、

「セクハラ?自意識過剰じゃ!」

とあったのを、自分は記憶していて、
さすがに読んだとき、
ウッ!と、
胸がつまる感触があったのを覚えている。

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その日は、全くツイていなかった。
夕方から降りだした雨で、
野球の試合は中止になり、
失意の中、悪童3人は京都へと帰ってきた。

若さというか、
強がりなのか、河原町の喧騒を歩いているうちに、
3人は、他者を嘲笑う元気を、
次第に取り戻して行った。
口癖は「女」と、もうひとつ「アホ」。
すれちがうもの全てがアホだった。
何がそんなにアホに見えていたのだろうか?
木屋町あたりで酔っ払い騒いでいる、
大学生たちが何故かアホに思えた。
同じくらいの年齢の自分たちが、アホでない根拠とは、一体何だというのか?

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川端二条の交差点を、
北に向かって歩いていたときのこと。

突然、
自分は背中に寒気を感じた。

すると、全く覚えの無い力で押し倒され、
背中が地面に着き、
鼻が温かくなり、ドロリとした粘り気のある感触と鉄の匂いがした。

殴られたのだ。

殴られたことよりも、暗闇の中で身動きがとれないことが、
本能的に死の恐怖を感じさせた。

「オマエらア、コラァ!なめとんのかア」

数人の男たちの、叫び声が聞こえてきた。
寝転がったまま、周りを見渡すと、
友人2人が、暴漢たちとにらみ合い対峙している。
友人たちは戦おうとしているのに、自分だけ動けない。
鼻のすぐ下は人中といい、急所に当たるところ。
その所為もあるのだろうか?いつまで経っても、腰が抜けたように動けない。
暴漢たちの方は、その余りの弱さに呆気にとられたのか、
第2、第3の攻撃を加えてこない。
やがて、
何人かの通行人が、こちらを気にしてやってくるのを見ると、
暴漢たちは、ゴキブリのような早さで退散した。

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「大丈夫ですか?」

30代くらいの親切な男性が、
駆け寄ってきた。
自分は、不意にガバリと身を起こし、
「大丈夫ですよ!」
と、力強い声で言い放った。
見栄をはっていたわけではない。
自分は20歳の屈強な大男だった。
殴られた程度のダメージなら、少し休息を取り、気力を蘇らせれば発声することくらいは可能だった。

屈強な男が、被害者になどなりようがない。

実は、
さほど痛みもなく、骨折もしていなかった。
自分は両足のバネを効かせて、ふんばると
「飛べるくらいですから」
と言い、その場でジャンプをしてみせた。
気味の悪い行動であった。
せっかくの親切を茶化された、通りがかりの男性は、
苦笑いをして、その場を去っていった。

「何なんや、アイツら!」
「なんでやねん?」
「さっきの大学生か…?」

体の強度は強いとは言え、
悪童たちは当惑していた。
殴られた理由が、わからないのだ。
考えられるのは、殴られる前に三条大橋の欄干から鴨川べりを見降ろし、酒を飲んで騒いでいる、大学生の集団を理由もなく小馬鹿にして、嘲笑っていたことだ。
その大学生たちが、自分たちの後を追ってきた?

「そやけど、橋の上の会話が下に聞こえるか?」

当たってるとは言い難い、推理だった。結局殴られた理由はわからず、この世には理由のない暴力というものが存在することだけが、わかった。

「どうしよ?」
「やっぱ警察行った方がええやろ」
悪童たちは、経験がないことにどう対処すれば良いのか、わからない。

すでに、夜の11時を回っていたろうか。
一番近くにある、川端警察署を尋ねた。
出迎えた数人の男性警察官が、
「うわあ…」
と言って、顔をしかめた。
その中でも、一番のベテランと思われる、
ブルドック犬のような顔をした、色黒の警察官が、
「とりあえず、顔洗ってきたらどうや」
と言い、自分を便所に案内した。
洗面所の鏡を見て、驚いた。
明るい場所での自分の顔は、
思った以上に血まみれで、
ヘソのあたりまで、血しぶきが飛び、白いシャツが赤く染まっている。
だが、
借りた濡れタオルで血を拭きとってみると、
腫れてはおらず、鼻のカタチは変わっておらず、殴られたことそのものが、
まるで嘘のようだった。

警察官たちにとって、面倒な仕事がはじまった。
「被害届出すか?」
と、ブルドックの警察官は悪童たちに尋ねた。
「…はい」
悪童たちは、
出すか?と、言われればハイと言う他、無い。
ブルドックの警察官は、
起こった状況の詳細を、モノを漁るように尋ねてきた。
彼の口調から、彼ら警察がこの調書を全くアテにしていないことが、すぐに見て取れた。
だというのに、取り調べは長時間で、
先程、
文章で描写した殴られた状況説明を、もっともっと詳細に粘着的に、
掘り起こされ、
自分はそれをひとつひとつ、
口頭で再現しなければならなかった。
その間、
目の前には常に、ブルドック・警察官の苦虫を噛み潰したような表情があった。
(もう1人か2人、傍に警察官がいた気もする)
固い机と椅子が、骨に堪える。
取り調べは、一時間程もかかったろうか。

完成した長い調書をブルドック・警察官は頭から読み上げ始めた。
棒読みの朗読の最後に、
「『私は、私に危害を加えたこの人間たちを、許せません』これでエエか?」
と、尋ねられた。
調書の締めの一文を、どうするか?ということだった。

『私は、私に危害を加えたこの人間たちを、許せません』

自分はこのような言葉を発してはいない。それは、警察官が勝手に付け加えた調書用の慣用句だった。
考えてもいないことを、考えたように書き加えられることは、ある意味殴られる以上に恐ろしかった。

「とりあえず、被害届は提出しとくわ」余計な仕事を終えた彼らは、それだけを告げて、悪童たちに帰宅するよう促した。犯人が捕まるとかいう次元でなく、調査対象ですらないことは、子どもでもわかることだった。

悔しさにまみれた悪童たちは、
署の玄関先で、
「なんやねん、これで終わりか!」
「これが警察か!」
「なんやねん、アイツらの態度!」
と、思いを言い合った。
その心からの大声が、警察官たちの耳に入ったのか、
数人が表に出てきて、
「おい、大丈夫か!気をつけて帰れよ」と、
取って付けたような、励ましの声を悪童たちの背中に投げつけた。

暗い帰り道、
「…これが、もし、女性やったらどうすんねん」
と、友人のどちらかが言った。

「ほんまや!」
自分と、もう1人が同調して言った。
「男の警官しかおらんやんけ!」
「ほんまや!」「ほんまや!」

女性ならどうなる?

誰かがこれを気にし、口にした。
自分と同じロクでもない悪童のはずだった、2人のうちのどちらかが。
つい先程まで「女」を「手に入れる」
ことばかり考えていたはずの悪童が、
はじめて、女性の身になって物事を考えたのだ。

(オイオイ、オマエそんなこと言う奴やったんか…)

自分は友人に驚き、自分が今覚えている感情にも、驚いた。
ようやく、女性が暴力に合うというのは、どういうことかの、
認識をほんのわずかばかり持ったのだった。
(認識には、性暴力も含まれていた)

殴られなければ、わからなかったのだ。

バカは殴られでもしなければ、わからない。
セクハラの意味がわからないような奴なら、
殴られでもしない限り、わからない。
一生、目が覚めないのだ。

だから勝手に殴られてろ。
MeToo