たろうの音楽日記

日々の音楽活動に関する覚え書きです。

平和とは何か?③~ワシは誰とも対話しとおない~

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初めて、仕事に就いた頃のことです。

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冗談やないで。

近頃は。
一体、何やいうんや。
やれ対話やーの、
やれ議論やーの、
何や知らんけど、
周りがやたら、喋らせようとしよる。
何や?
対話のテーブルって?
テーブルでもゴザでも、
ワシは誰とも喋りとおない。

何なんや。
近頃の結婚式のスピーチと来たら。
見て見い。
男のくせにペラペラペラペラペラペラ。
どないやねん。

ワイはよう喋らん!
たとえムスコの結婚式でも、喋らん!
紙に書いて持っとかな、どうにもならん。
最近の若い男は、みんなペラペラ喋りよるんか?
喋られへん、ワシらの立場はどうなるんや?
男は黙って、社民党
ちがうんか?

その上、酒まで飲むな言われたら、
ワシら、一体どないしたらエエんや?

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ボク(この文章を書いている)が、
20年以上前、
鉄工場に勤めていた頃のハナシなんですが、
工場内には、
定年退職後も何となく出勤している、
じっちゃんたちが、ワラワラといました。
当時のじっちゃんたちは、
今時のじっちゃんと違って、
ホンマに「おじいちゃん」
いう感じでしたね。
じっちゃん言うても、
60後半から、70代くらいやったはず。
今この、2018年の感覚なら若い。
何であんなに、
「おじいちゃん」してはったんやろう?

まあ、
その、じっちゃんたちは、
いっつも、何となしに工場の中を、
ブラブラしていました。
作業着に、黒いキャップ、長靴姿で後ろ手を組み、散歩。
若いボクなどは、
何となく監督されてるような気に、なってみたもんです。
稀に、監査のお偉いさんたちが来たりすると、
じっちゃんたちは、
思いついたように、電ノコ板のスイッチを入れ、
何の製品になるのかよくわからない、
鉄のバームクーヘンみたいなんを、
輪切りにしたりしてたもんです。

そんな、
じっちゃんたちの中にひとり、
「あの人だけは、仕事マトモや」
と、若い社員の間でも一目置かれている、
がしかし、
手のつけられない、ガンコ親父が一人いました。

ガンコです。
とにかく、ガンコです。
まず、喋ることがありません。
いつも、
万力のバケモンみたいな、
手動の機械に向き合い、
長いアームを、ガコンガコン操作して、
鉄パイプみたいな製品を、
一本一本加工してました。
溶接とかいうわけでもなく、
何の特殊技能なのか、ボクには全くわかりません。

「オレに話かけるな!」

というオーラが、その背中から溢れ倒しています。
まさに、職人。
ボクなど、挨拶することすら恐れていました。
(ただ『おはよう』言うだけやのに)

そんなガンコ親父とボクが、
工場で仕事をしていた3年間の中で、
たった一度だけ、会話したことがあります。

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工場内には、
ひとつ扱いを間違えれば、
危険な設備、機械もあります。
例として、
見た目普通の蛇口から、
人が触れてはならない液体
(恐らく、鉄製品専用の強力な洗浄力がある何か)
が出る、
流し場みたいなトコがありました。

ある日ボクは、
念入りにゴム手袋を装着して、
その流し場で鉄パイプを、ジャバジャバと洗浄していました。

その時のことです。

ボクの真横、信じられない程近い距離に、
あのガンコ親父が、
ぬうっ、
と顔を出してきて、
おもむろに、素手の指先を、
そのアカン液体で、
チョコチョコと洗うではありませんか。
親父はボクの顔をハッキリと見、
そしてニンマリと目を細めて、

「ワシちょっとくらいやったら、(この液体)触れても平気やねん」

と、初めて聞く声で言いました。

「平気なんですか!」

ボクは、ガンコ親父にそう答えました。

単なる、
オウム返しが精一杯でした。
そしてガンコ親父は、

「…ただ、この後、水でよう洗わんとアカンのやけどな」

と、一言付け加えると、
ボクにクルリと背を向け、
何処かに去って行きました。
多分、普通に水が出る蛇口に、手を洗いに行ったんやと思います。

(水で洗い直すんやったら、何も最初から危険な液体使わんでもエエやないか…)

と、ボクの心は言ってましたが、
そんな矛盾など軽く吹き飛ばすほど、
ガンコ親父のほほえみと、意外と茶目っ気のある声を、
この耳で聞けたことは、
衝撃であり、
感動であり、
充実でした。

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このガンコ親父が、
工場でクソの役にも立っていない、ボクよりも、
早く退職したのは、意外でした。
退職理由は、わかりません。

ただ、
朝礼で工場のセンター長が、
ガンコ親父が退職した旨を、皆に報告したとき、

「…なお、〇〇さん(ガンコ親父の本名)の、送別会なんですが、ご本人が『性に合わん!』というコトなので、致しません」

と、最後に付け加えました。

カッコいいです。
カッコ良すぎです。

【性に合わん】

ただそれだけの理由で、
ン十年勤めあげた、自身の送別会を拒否。
ボクなど、
歓送迎会の類は自分がカネを払ってでも、やって欲しいです。

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ああ、あのガンコ親父が今の時代を見たら、
なんと思うかなあ。
やれ対話だの、
やれ議論だの。
やれスピーチだの…。
全部、小選挙区制が悪いんや。

とにかく、
親父にあんまり喋らせんでやってください。

会話以上にわかりあえる方法が、必ずあるんです。
具体的には知らんけど…